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vol.5
1999.02.13





あなたと二人静かに燃えて

「あなたと二人静かに燃えて、手を組んでいる喜びを
下を見ているあの白い雲に隠すのはよしませう
ふたり一所に歩いた十年の季節の展望は
ただあなたの中に女人の無限をみせるばかり」
取材に向かう道すがら、JR車内の広告にこんな詩をみつけました。
おりしも、インタビューの相手はテレビドラマ監督・鶴橋康夫。浅丘ルリ子をレズビアンに溺れる淑女に仕立て上げ、大竹しのぶを自分の赤貧の過去を架空の記事に書き立てる上昇志向の強いキャリアレディに化けさせ、原田美枝子の中から無意識に男を誘う妖しい魔性を抉り出し、芸術祭を始めとする様々な賞を獲得して来た奇才です。
詩人・高村光太郎と映像作家・鶴橋康夫。時代と手法は異なるものの、二人の作家が人間の中に同じ無限の闇を見出している。
そのことに気付くことで、アエラ「現代の肖像」の記事を書ききることができました。今週発売号です。同じ号に載っている「フジテレビ対日テレ」という陳腐な構図の記事と共に見ていただければ幸いです。
「この前細い道を歩いていたら、明らかにスピードを落とさずにこちらに突っ込んで来る車がいたんです。とっさにすれ違いざまに肘を出してバックミラーに当てて、車を停めてひどいことしちゃいました」
はにかみながら語っていたのは作家・花村萬月でした。そしてこう続けます。
「それでも無自覚に相手を痛めつけているんじゃなくて、どの程度までだったら傷害にならないか、警察のやっかいにならないか、けっこう冷静に考えているんですよね、そういう時って」
巷では「愛と性と暴力の作家」と言われていますが、実際の彼からはそんな「高熱」は感じられません。三鷹駅から歩くと20分はかかりそうな住宅街に在る新築の3階建て。新建材の匂いが残る小さな建て売り住宅の二階が彼の仕事部屋でした。ギター二本、オーディオ、ソニーのバイオ、本棚一杯のビデオ。床には塵一つなく、あまりにも整然とした佇まいの部屋です。印象に残ったのはビデオの中に「正しい歯の磨き方」というタイトルがあったのと、ごみ箱の中のゴミが、まるで山奥の湖の水面のような静謐さを湛えていたことです。つまりゴミの表面が、奇麗な水平状態を保っているのです。上から押しつぶしたという印象はありません。雪が降り積もるように、自然な状態です。
「この作家はゴミ一つ捨てるにも、捨てるべき場所と捨てるべきフォルムを意識しているのか」
冷たい狂気とでもいえばいいのでしょうか。原稿用紙1500枚に宿る「悪寒」の源泉を垣間見た思いでした。
この時のやりとりは、もうすぐ発行になる「抒情文芸」の巻頭インタビューに収録されています。(発行元電話3399−3704)
「軽井沢広島と行っておりました/原稿は読ませていただきました/まったく問題はありません/では又お会いできる日まで・・・・・」
そのメールの到来は、あまりに突然でした。差出人は「Moon」、ドメインネームは「bathroom」、全く思い当たる節はないのですが、文面から言うと、吉田拓郎さん以外ありません。
僕はその数日前、こんな文章を書いて確認のために彼にメールしていたのです。
「その文章には「吉田拓郎という名の孤独」がしたたかに刻まれている。昨年秋に発売されたアルバム「ハワイアン・ラプソディー」に添付された自伝的小説の中の一節だ(中略)最近吉田拓郎は変わったとよく耳にする。タレントになったのか、若者にこびるようになったのか、そんな揶揄も聞こえて来る。けれど一番大きく変わったのは、この「孤独」を自ら口にできるようになったことなのではないだろうか」
今度の春で53歳になる吉田さんは、昨年の暮れのコンサートツアーで、同じフレーズを違う曲の中で3度連呼していました。「間に合うさ」「遅すぎることはない」「ノット・ツー・レイト」。彼は、まだ間に合うと思っているのです。自分を変えられるとも思っているのです。そして嬉しそうに24歳の時のデビュー曲「イメージの詩」を歌い上げていました。3月2日売りの週刊朝日「人間万歳」を見てやってください。
生きていると瞬間、激情にかられることがあります。情熱とは熱いものだという思い込みもあります。酒の力を借りて激昂し、酔いが覚めると再び昨日と同じ道を歩いている自分に気付く日々。恐いのは冷静な情熱だとしみじみ思います。
それにしてもJRと福島県もよくやってくれます。高村光太郎が智恵子に贈った詩なんか見せ付けられたら、欲情のあまり見ず知らずの隣りの女の手を握りそうになるじゃないですか。時を越えて人間をかどわかして行く「冷たい情熱を湛えた」言葉たち。皆さんもお気をつけて・・・・。

 

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