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vol.22
2002.05.30





あぁテレビよ、テレビ

「突然なんですが、モーニングショーにコメンテーターとしてご出演いただけませんでしょうか」
 本当に突然のこと、ある日事務所にこんな電話がかかってきました。
「はぁ?ぼくがですかぁ?何でぇ?よほど人材がいないんですね」
 答えようがなくてそう言うと、相手はきっぱりといいました。
「はい。そうなんです」
 あぁ、テレビよ、テレビ。

 つまりこういうことなのです。
 巷で話題の和泉元弥の宗家継承問題をワイドショーの中で生討論したい。過去の資料を当たっているうちに、神山の書いた記事も出て来た。出席者は6名。もし神山が出てくれないと、誰も元弥にあったことがないまま議論が進むことになる。
 あぁ、テレビよ、テレビ。

「つまりそれは、松山千春になれってことね」
 僕が訊ねると、人のよさそうな若いディレクター君がこう言います。
「いやぁー、そういうことじゃないとは思うんですが。議論が盛り上がらないと視聴率が取れないので、、、」
 あぁ、テレビよ、テレビ。

 その夜、いつもの「明星」で呑んでいたら、偶然その番組を観ていたという人がいました。
「あれってあなただったの。皆批判的だったけど、あなたは客観的な発言でよかったわよ。元弥さんて、生れながらにして苛められ続けてきたのね」
 と、ここまではいいのですが。続けて、
「でも、元弥には反抗期がなかったとか、お姉さんが生まれた時に誰も喜ばなかったとか、そんなプライバシーまで言ってる人もいたわよね。あれは酷いんじゃない」
 ふー。
 それって僕の発言なんす。
 あぁ、テレビよ、テレビ。

 一カ月ほど前、富良野で語られた倉本聡の言葉を思い出します。
「テレビ局は知ってるんですかね。気象情報で台風は北に逃げましたって平気で言うでしょ。北海道はこれから来るっていうタイミングでね。自分達か中央で、自分達が中心だということを無自覚に肯定しちゃってるんだよね。あれが板橋区とか多摩の奥とかにあったらずいぶん姿勢も変わるんだろうけどね」
 そういえば昔、富山県に住む友人が怒っていたことがありました。
「テポドンが日本列島を通過して太平洋上に落ちましたって騒いでいるけれど、あれは二発目で、一発目は日本海に落ちたのよ。富山県の目の前よ。その時は何にも騒がなかったくせに、、、、」
 あぁ、テレビよ、テレビ。

 午前八時十五分からの打ち合わせに参加してみると、そこにはもうそれぞれの大まかな発言内容が書き込まれた台本と、「宗家、宗家」と連呼する元弥親子をおちょくったVTR素材ができていました。そのVTR明けには必ず僕の発言が、、、、。「これって、ずいぶんな割り振りですよね」
 ひきつった笑顔で言うと、ベテラン・ディレクター氏が言いました。
「ははは、他に実像を知っている人がいないんで、、、」
 ふー、テレビよ、テレビ。

 たった二十分の打ち合わせ。何十人ものスタッフが詰め込まれた狭いスタジオ。黒塗りのハイヤーでやってきたコメンテイターたち。出番直前、プロデューサー氏が冗談まじりにいいました。
「もし途中で宗男逮捕の報が流れたら、このメンバーでそっちの討論にしてもらいますから。ははは」 わけのわからない環境の中で、一つの世論が捏造されていきます。
 本番になって気付いたのは、インパクトのある言葉をいかに印象的な部分で語れるか。それが電波芸人の腕の見せ所ということでした。さすがは梨本。CM前の十秒でとっさに言葉を詰め込みます。
「ドタキャン騒動の時も、節子さんは「元弥は時空を越えています」っていうんですよ。そりゃなんなんでしょうか」
 一堂笑って無事CMへ。お見事。でもそれって、自分のインタビューで採った言葉なのかしらん。誰かのインタビューの引用なんじゃないのかなぁ。他人の言葉も一度メディアにのったものは平気で自分の言葉にしてしまう。それもまた芸人のなせるわざ。
 いやはや、テレビよ、テレビ。

 ところがこれを書いているたった今、ディレクター氏から電話がかかってきました。「一昨日はお疲れさまでした」という彼に、思わずこんな言葉が口をついて出ていました。
「で、視聴率どうだった?」
 はははテレビよ、テレビ。こんな僕にもしっかりとその毒は巣くっているのです。
 あぁ今日もまた、誰かがどこかでこんな電話に驚いているのでしょう。
「突然なんですがご出演を、、、、。他に人がいなくて、、、」

 いやはや、テレビよ、テレビ。
 あなたは一体、何様なの?


 

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